認知症は脳の認知する力が低下する病気として知られています。例えば重要な予定を忘れてしまったり、慣れている仕事や家事の簡単なミスなど、特に普段の生活に支障を来たすような症状があらわれる病気です。
認知症にはさまざまな種類がありますが、その中でも最も多いとされるのがアルツハイマー型認知症です。アルツハイマー型認知症は脳の一部が萎縮（縮んでいく）することで起き、物忘れの症状から始まってゆっくり進行していくと言われています。
認知症を治療する方法は確立されておらず、現在でも進行を止めたり回復させる方法は見つかっていないばかりか、高齢者（65歳以上）の5人に1人は発症する身近な病気です。日本だけでなく、世界的にも研究が急がれる重要な病気のひとつです。
アルツハイマー型認知症はアミロイドβというタンパク質やタウ蛋白と呼ばれる物質が脳に蓄積することで進行（脳の萎縮）することがわかっています。ですが、なぜ大量に蓄積してしまうのかは明確にわかっていません。
一方で、歯科の分野で高齢者が患いやすい病気として歯周病が挙げられます。口腔内に歯周病菌が増えることで炎症が起き、口臭が酷くなったり、最終的に顎の骨が溶けることで歯が抜けてしまう病気です。
近年では、アルツハイマー型認知症と歯周病の関係性についての研究が多くされており、2つの病気が症状の進行に関係していることが明らかになってきています。
アミロイドβというタンパク質は、通常体外へ排出されていきますが、何らかの原因で排出されずに脳に蓄積する事でアルツハイマー型認知症が進行します。この何らかの原因のひとつが歯周病であると研究で明らかになっています。
研究では歯周病菌を投与したマウスと正常なマウスの脳を3週間に渡り比較した結果、歯周病菌を投与したマウスは「アミロイドβを運ぶ受容体が脳血管表面で約2倍に増加」「脳表面のアミロイドβの蓄積量が約10倍に増加」「記憶力の低下」が確認されました。（※1）
また、認知症患者に対して歯周病治療・口腔ケアを行うことで認知症の進行が予防できる可能性も示唆されています。このことから、歯周病治療・予防を進めることで認知症になるリスクを下げることができる可能性があると言えます。
参考文献※1）歯周病の炎症が脳内に波及し、アルツハイマー病分子病態の増悪ならびに認知機能詳細を促進させることをマウスモデルで明らかにした。また、認知症および軽度認知症の患者に対して介入試験を行い、歯周病の治療、口腔ケアによる介入によって認知症の進行が抑制されることを示唆するデータを得た。これらの成果は、歯周病の治療、口腔ケアをすることにより認知症の予防ならびに認知機能の低下を抑止できる可能性を示しており、今後の大規模な研究の基盤となる。
歯周病は認知症を引き起こすよりも直接的な症状として、沢山の歯を失う原因になります。歯を失ってしまうと、食べ物を噛むことができなくなるだけでなく、認知機能を低下させてしまう可能性があります。噛む動作は脳が活性化と関わりがあると判明しており、噛んだ刺激は脳の中心部にある海馬に伝わり、脳の機能を活性化させます。
65歳以上を対象にして認知機能と歯の本数について調査した報告では、歯がほとんど無く、入れ歯・インプラントを使用していないグループは、歯が20本以上残っているグループに比べ認知症になるリスクが1.9倍という結果が出ています。この研究だけでなくその他多くの報告によって「歯を失うと認知機能が低下する」ということが明らかになっています。（※2）
これらの研究結果から、歯周病に感染したり歯周病で歯を失ってしまう前に予防を心がけることで、アルツハイマー型認知症になるリスクを下げることができるということです。
※2参考文献
歯が抜けたり歯周病になったりすることは、お口の中だけの問題に思えてしまいます。しかしならがら、脳の機能が低下したり、歯周病菌が血液を介して脳に悪影響を及ぼし、アルツハイマー型認知症発症の要因となる可能性もあります。
歯周病は初期症状では痛みを伴わない「静かなる病気」ですので、侮ってはいけません。当院でも治療が終わった後は3ヶ月ごとの定期的な検診をおすすめしております。痛みの症状が無い方でもお気軽にご相談ください。
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