歯の根っこの治療(神経を取る治療)を終えた歯には、被せ物(クラウン)を装着することが一般的です。従来の方法では、歯の中に土台を立て、その上に被せ物を作るという二段階の構造が必要でした。これに対し「エンドクラウン」という被せ物は、土台と被せ物とをひとつの塊として作り、歯に直接接着する新しいタイプの被せ物です。
エンドクラウンのメリットは、これまでの土台を作る被せ物を作ることが難しいケースでも、被せ物を容易に製作することができ、被せ物を作るために必要だった他の治療を省くことができます。さらに、エンドクラウンは2024年6月から保険が適用されるようになりました。神経を失った大臼歯(奥歯)で条件を満たせば、保険診療の範囲で白い被せ物を選べるようになったため、治療後も自然な見た目を維持できます。
従来の被せ物は、歯の神経を取って穴が空いた部分に土台を作り、その上を覆うようにして被せ物を装着します。土台作りと被せ物作りをそれぞれ行う必要があるので工程が多い事や、適切な形を作るために歯を削る量が多いことが難点でした。
エンドクラウンは、被せ物と土台部分を一体化した構造になっているため、形を作る工程が1つ減ります。また、形状がより単純になり残せる歯質も多くなるので、根管治療後の歯にも優しい治療と言えます。
なんばアップル歯科 歯科医師
根管治療を終えた歯の修復は、「残った歯を守りながらどのように補強するか」を第一に考えながら治療を進めていきます。エンドクラウンは支台築造という工程を省略でき、健全な歯質の保存につながるため近年注目されている修復方法です。一方で、残っている歯の状態によって適応が厳密に決まるため、かならず選択できる治療という訳ではありません。
このページでは、エンドクラウンの構造と従来の被せ物との違い、メリット・注意点、そして治療の前提となる根管治療について解説しています。根管治療後の被せ物選びで迷われている方の判断材料になればと思います。
従来の被せ物治療では、根管治療の後に支台築造という土台を作る工程を行います。根の中にポストと呼ばれる芯を入れて、コアと呼ばれる土台で歯の形を回復させたうえで、その周囲をぐるりと一周削って被せ物を装着させるスペースを作ります。この時、被せ物が歯をしっかり抱え込んで外れないようにするために、歯茎より上に一定の健全な歯質(フェルール)を残す必要があり、その確保のためにさらに歯や歯茎に手を加えなければならないケースもあります。
エンドクラウンは、深くポストを差し込む必要がなく、土台と被せ物が一体となっている事が最大の特徴と言えます。これによって、歯質が多く残っている場合・フェルールが確保しにくい場合は、エンドクラウンによる被せ物治療が効果的と言えます。
根管治療後の歯に付けられたメタルコア
支台築造という工程がそのまま不要になり、その分の来院回数を短縮できるため、お仕事などで通院時間の確保が難しい方にとって最も大きなメリットです。
加えて、従来の被せ物治療と比較して型取りも容易です。エンドクラウンはスキャナーを用いたデジタルスキャンによる型取りとも相性がよく、患者様の治療負担軽減が期待できます。
歯の中にポストを入れるための空間の確保や、フェルールを確保するための歯を削る工程が不要になるため、歯の強度を支えるエナメル質を多く残すことができます。
従来の方法で大きく歯を削ってしまうと、次にその歯が悪くなった時に抜歯となってしまう可能性がありました。歯質を多く残せる事で、少しでも歯の寿命を長く保てる可能性があがります。
従来の根管治療で使われていたポストは打ち込まれたくさびのように働いてしまい、噛む力などによる横方向へ押し広げる力を生みだします。その結果、根管治療後に歯が割れてしまう歯根破折の一因になることが指摘されていました。
エンドクラウンはポストが無く深く差し込むような形状ではないため、従来型と比較して治療による破折のリスクが低いと言えます。
治療回数の短縮や保険適用による費用負担の軽さなどを聞くと、エンドクラウンは万能な治療法のように感じるかもしれません。しかし、どのような治療にもメリット・デメリットがあり、すべての根管治療後の被せ物でエンドクラウンを使える訳ではありません。
特に、エンドクラウンは従来の被せ物の方法よりも明確に横方向の力に弱いと言えます。エンドクラウンは深く差し込むような形状にならないため、横からの力がかかりやすい歯の形状や咬み合わせの歯並びに使用すると簡単に外れてしまいます。こういった個別の症状への適用を考慮しながら、エンドクラウンにするかどうかを決めていく必要があります。
エンドクラウンは、歯の根の治療を終えた奥歯(大臼歯)の被せ物が対象であり、どの歯にも使える治療法ではありません。被せ物の厚みを確保できる咬み合わせのスペースがあること、健全な歯質が規定以上に残っていることなど、複数の条件を満たす必要があります。
条件を満たさない歯に無理に適用すると、外れたり割れてしまう原因となるため、レントゲンや口腔内診査による適応判断が不可欠です。
土台と被せ物が一体になっているため、一部が欠けた場合でも部分的な修理は難しく、原則として作り直しになります。従来の被せ物であれば土台を残したまま被せ物だけを再製作できるケースもありますが、エンドクラウンでは全体を除去してやり直すことになります。
ただし、ポスト除去という難易度の高い処置が発生しない分、再治療の際に歯へ加わるダメージは抑えやすいという側面もあります。
エンドクラウンはその形状の都合上、被せ物と残した天然歯の境目(フィニッシュライン)が歯茎よりも上の見える位置に作られることが多くなります。保険適用で白い見た目の素材を使うことはできますが、天然歯と全く同じ色味に仕上げることは難しいほか、歯科用樹脂素材は経年劣化によって着色することがあり、治療箇所が目立ってしまうリスクがあります。
エンドクラウンは奥歯に利用する治療法であり前歯には利用されませんが、大きく口を開けたり、ご自身で奥歯を確認された時に違和感を感じてしまう可能性はあります。
エンドクラウンは、歯の神経を取り除く根管治療を終えた後の被せ物治療の一種のため、根管治療を行わなければ治療の選択肢になることはありません。
根管治療は大きな虫歯になってしまった時に、痛みの元となっている神経だけを取り除き歯を保存する治療です。根管治療は抜歯を避けて歯を残すことができる素晴らしい治療ではあるものの、歯を根管治療が必要な状態にしないように、日々のセルフケアを怠らないことが一番です。
エンドクラウンなどによる根管治療後の治療精度向上の方法がある一方で、その前段階で行う保険診療の根管治療には、痛みなどの再発リスクが大きいことが知られています。根管治療では細く小さい歯の中を綺麗に洗浄する必要があり、その治療中に唾液などに含まれる細菌によって感染が起きてしまったり、虫歯や神経の取り残しのリスクがあるためです。
当院では、そういった根管治療中の感染リスクの管理や精密な機器の使用ができる「精密根管治療」という治療を提供しています。ラバーダムによる防湿・治療部位への唾液の混入防止・ニッケルチタン製の器具を使った正確な感染部位の除去・マイクロスコープを用いた明るい視野の確保など、保険診療の範囲で取り扱うことが難しい治療器具の使用・時間の確保が可能になります。
エンドクラウンは、歯を保存するうえで優れた特徴を持つ修復方法ですが、根管治療を始める段階、被せ物のやり直しを検討する段階でご相談いただくことが大切です。エンドクラウンの適用が難しい歯や、別の治療が適切になる症例もあるため、必ず治療を受けられる訳ではない点も理解しておく必要があります。
当院では、レントゲンなどの検査結果をもとに、根管治療が必要な歯の治療方法や被せ物の種類について患者様にご提案させていただきます。根管治療の疑問や質問がある方は、お気軽に当院へご相談ください。
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